2012/02/29

2.28 ぼくの、わたしの幻魔大戦

いましろたかし著「原発幻魔大戦」/エンターブレイン


 釣り人たちの日常を淡々と描いていた、いましろたかし。
 だが、3.11以降の政府、メディア、官僚、財界の余りのデタラメぶりに
 いてもたってもいられなくなってしまい、連載内容を突然、大転換!
 漫画を通して普通の生活者の目線から、原発そしてTPPに異議を申し立てた!
 さらに実際の国会では、いかなる状況になっているのかを訊くため、
 現役国会議員・田中康夫氏にインタビューを敢行。



いましろたかし先生の「原発幻魔大戦」を読む。
原発事故からの原発ルポ漫画。
原発や放射線に怯え、焦り、怒り、デモする日々。
“いてもたってもいられなくなった”感に、読んでいて胸がしめつけられた。
読み終わっても感動も、爽快感もない、答えが無い。
目の前で起っていることの恐ろしさと、その見えなさの矛盾、
疎まれる怒り、デモでの嘲笑、
空滑りするリアル感、
幻魔な現実。

いましろ先生のtwitter は事故後直後から読んでいた。
事故直後、確かにいましろ先生は福島第一原発を目指して福島入りされていた。
(その時のツイートのいくつかは削除されているみたいだけど)
漫画では「9.11原発やめろデモ」も描かれていた。
この漫画に描かれていることはほぼ、同時進行に起っていたことだ。
漫画全編、原発やTPP、政府、官僚、マスコミへの怒りが描かれてる。
震災の「癒し」ではなく、これだけの怒りを直球で、
しかも商業誌で描いた漫画家は稀有なんではないかな。

それと、
商業誌の連載漫画の内容が、社会的時事を受けて急変したこと、
これ、けっこうすごいことに思う。
作家のいましろ先生の反射神経にも敬意ものだけど、
この漫画を掲載し、しかもインタビューも加えて単行本にした
エンターブレインの英断に拍手。
考えてみたら、新聞の4コマもそうだけれど、
漫画ほど、大衆文化、普通の暮らしと近いものはないし、
漫画こそ同時代性の文芸の極みであって、
風刺漫画は古今東西、漫画の真骨頂なはずだものね。
けれど、いまの大手の出版社、
とくに若い人向けの少年・青年漫画誌、少女・女性漫画誌では、
社会的な内容を扱うのは難しいと思う。
原発問題ならなおさら。
 この本に関わった方、編集の九龍ジョーさん、大変おつかれさまでした。


読み終わって残るものは、爽快感でも感動でも何でもない。
むしろこれからの未来の多難さを感じて身が重くなる。
読んで不快という人もいると思う。
それが現実だ。

原発幻魔大戦、
幻の悪魔は、放射能だけのことじゃなくて、
人々の無関心だったり、出口の無さだったり、戦う徒労感だったり、
そういうみえない、匂いものないものとも、戦っているんだろう。