頭の悪い人は、頭のいい人が考えて、
はじめからだめにきまっているような試みを、一生懸命につづけている。
やっと、それがだめとわかるころには、
しかしたいてい何かしらだめでない他のものの糸口を取り上げている。
そうしてそれは、そのはじめからだめな試みをあえてしなかった人には
決して手に触れる機会のないような糸口である場合も少なくない。
自然は書卓の前で手をつかねて空中に絵を描いている人からは逃げ出して、
自然のまん中へ赤裸で飛び込んで来る人にのみ
その神秘の扉とびらを開いて見せるからである。..........
(寺田寅彦「科学者とあたま」)
幾度となく失敗をおかし、間違いの多い人生ではあるけれど、
寺田寅彦のこの文章を読むと、
それでもなにか、良いことがあるような気がする。
間違いが多いぶん、
遠回りしたぶんの景色をみているし、
遠回りしたぶんの時間を経てもなお、
掌にのこっているものはそのぶん、愛おしかったりする。
間違いは、そのぜんぶが間違いではない。
間違い人生のなかでみつけた唯一の真理なり。
寺田寅彦曰く、
「頭のいい人には恋ができない。」
これも真理だとしたら、
あたまがよくなくてよかったと思うのだった。